アメリカを旅して、ランドスケープイマ-ジョンとアニマルウェルフェアを考える ~計画編~

にっぽんの動物園

シアトルとニューヨークへ――『動物園にできること』の続きを見に行く

一度はアメリカの動物園を訪れてみたい。

そう思うようになったきっかけの一つが、川端裕人さんの『動物園にできること――「種の方舟」のゆくえ』でした。

この本が刊行されたのは1999年。川端さんはアメリカ各地の動物園を訪ねながら、「動物園は何のためにあるのか」「飼育されている動物にとって、よりよい環境とは何なのか」という問いを追いかけています。

【読書案内】『動物園にできること』|川端裕人
「読書案内」シリーズ。今回紹介するのは、川端裕人さんの『動物園にできること』です。

重要なキーワードとして登場するのが、「ランドスケープ・イマージョン」と「エンリッチメント」です。

動物を檻の中に閉じ込めて見せるのではなく、その動物が暮らす環境そのものを再現し、来園者もその風景の中に入り込んだような感覚をつくる。そして、飼育下でも動物が本来の行動をできるだけ発揮できるようにする。

現在の日本の動物園において、こうした考え方はもはや決して珍しくありません。しかし、こういった考え方は1980年代後半のアメリカで、一気に普及したものなのです。

私は来月下旬、その本に登場する動物園のうち、シアトルのウッドランドパーク動物園とニューヨークのブロンクス動物園を訪れる予定です。

もちろん、1999年の動物園と2026年の動物園は同じではありません。

しかし、だからこそ面白いと思うのです。

約30年の時間を隔てて、かつて「先進的」と紹介された動物園が現在どうなっているのか。そして、展示や飼育環境はどのように変化しているのか。それを確かめる旅にしたいと思います。

まずはシアトルへ

今回の旅行では、まずウッドランドパーク動物園を訪れる予定です。

ウッドランドパーク動物園の歴史は、少し変わった始まり方をしています。

もともとはシアトルの実業家ガイ・フィニーの私有地に設けられた小さな動物コレクションでした。1899年にシアトル市が土地を取得し、公園・動物園として発展していきます。1903年には別の場所にあった動物コレクションも統合され、現在の動物園の基礎がつくられました。

初期の動物園は、現在のような自然環境を再現した動物園ではありません。

ライオン舎などの施設が整備され、ごく一般的な動物園として発展していきました。

大きな転換点となったのが1970年代です。

1976年に策定された長期計画では、動物園の動線や植栽、土地利用を「生態学的な考え方」に基づいて組み直す方向が示されました。そして1970年代後半には、アフリカのサバンナ、ゴリラ、霊長類、北米の湿地など、自然環境を意識した展示が次々と整備されていきます。

従来型の「檻」をやめ、植栽や景観を取り入れた展示をつくる。

現在では当たり前に思えることでも、当時としては大きな変化でした。

川端さんが『動物園にできること』で注目したのも、まさにこうした動物園の変化でした。

「ランドスケープ・イマージョン」とは何か

今回の旅行で、ぜひ実際に体験してみたいのが「ランドスケープ・イマージョン」です。

簡単に言えば、

「動物を見せる」のではなく、「動物の世界に入り込んだように見せる」

という考え方です。

たとえば、ライオンの前に人工的なコンクリートの壁をつくり、「ここからライオンを見てください」とするのではなく、草原、岩、植生、池などを組み合わせ、その動物が暮らしている風景そのものをつくってしまう。

すると、来園者は「ライオンを見ている」というより、「ライオンの生息地を覗いている」ような感覚になります。

川端さんが紹介したアメリカの動物園では、この考え方が展示デザインの大きな潮流になっていました。

ただし、自然に見えることと、動物にとって本当に良いことは、必ずしも同義ではありません。

見た目が森や草原になっていても、動物がそこで自由に行動できなければ意味がないのです。

逆に、人工的な構造物があっても、それによって登る、隠れる、探索する、採食するといった行動が引き出されるなら、動物にとって価値があるかもしれません。

つまり、ランドスケープ・イマージョンを考えるときには、

「人間から自然に見えるか?」

だけではなく、

「動物にとって、そこで暮らす意味があるか?」

という視点が必要になります。

今回の旅では、この違いにも注目してみたいと思います。

2026年のウッドランドパーク動物園

2026年のウッドランドパーク動物園は、現在も展示と飼育環境を進化させています。

現在の園内は、熱帯雨林、温帯林、沿岸砂漠など、異なる気候・生息環境を意識したゾーンに分けられています。92エーカーの敷地に、800頭以上の動物、250種以上が暮らしています。

さらに2026年には、新しい「Forest Trailhead」がオープンしました。

森林をテーマに、樹上の通路や森林景観、屋内施設を組み合わせ、キノボリカンガルー、レッサーパンダなどを展示しています。森林という生態系と、そこに暮らす動物、人間の生活とのつながりを来園者に考えてもらうことがテーマになっています。

つまり、1970年代から続いてきた「自然環境を意識した展示」は、現在では「生態系保全を伝える展示」へとさらに広がっているように見えます。

そして、もう一つ注目したいのがアニマルウェルフェアです。

園のウェブサイトでも、自然植生を取り入れた環境によって、動物がより野生に近い行動を示せること、また来園者から離れて休むことのできる選択肢があることが紹介されています。

ぜひ、「ランドスケープイマ-ジョンとアニマルウェルフェアをどのように両立させているのか」という視点で楽しんできたいと思っています。

次はニューヨークへ

シアトルから飛行機でニューヨークへ移動し、今度はブロンクス動物園を訪れます。

こちらはウッドランドパーク動物園とは、また違った歴史を持っています。

ブロンクス動物園が開園したのは1899年。

ウッドランドパーク動物園が現在の姿へ変化していったのと同じ時代に、ニューヨークでは「世界有数の動物園をつくる」という構想が進められていました。

母体となったニューヨーク動物学協会は1895年に設立され、動物学の研究、野生動物保全、そして一流の動物園をつくることを目的としていました。現在のWildlife Conservation Society(WCS)です。

ブロンクス動物園は、その理念を実現するための動物園として誕生しました。

そして、こちらも展示の歴史に大きな転換点があります。

ブロンクス動物園と「風景」

1941年にオープンしたAfrican Plainsは、ブロンクス動物園の展示史を語るうえで重要な存在です。

それまでの動物園では、動物を分類群ごとに並べる展示が一般的でした。

しかしAfrican Plainsでは、動物を生息環境・景観というまとまりで見せる方向へ進みました。

WCSの資料によれば、1941年のAfrican Plainsでは、捕食者と被食者をモートと呼ばれる堀によって隔てながら、自然に近い景観の中で見せる展示が実現されました。これは後のランドスケープ・イマージョンにつながる重要な展示史の一歩といえます。

現在のブロンクス動物園は260エーカーを超える広大な敷地を持ち、森林などの自然環境そのものが園内の大きな要素になっています。11,000頭以上、640種以上の動物が暮らす、巨大な都市動物園です。

つまりブロンクス動物園は、

「大都市の中に巨大な自然景観をつくり、その中に動物を置く」

という発想を、非常に大きなスケールで体験できる場所なのです。

ランドスケープ・イマージョンからアニマルウェルフェアへ

今回の旅で私が一番注目したいのは、この変化です。

川端裕人さんが『動物園にできること』で描いた1990年代のアメリカでは、

「動物をどんな環境で見せるか」

という問題が大きなテーマになっていました。

コンクリートの檻ではなく、森林や草原をつくる。

動物を分類群ではなく、生息環境のまとまりとして見せる。

来園者自身も、その景観の中に入り込む。

これがランドスケープ・イマージョンでした。

しかし現在は、そこからさらに一歩進んで、

「その環境の中で、動物はどんな生活を送っているのか」

が問われています。

展示が自然に見えること。

動物が自然な行動をすること。

動物が自分で選択できること。

心身ともに健康であること。

そして、その飼育環境が保全や教育という動物園の目的とどう結びついているのか。

これらは全部、別々の問題ではありません。

今回の旅で「見るもの」

そこで、今回の2園では、「どんな動物がいるのか」だけではなく、次のような視点で見てみたいと思います。

① 景観

その展示は、どんな生息環境を再現しているのか。

② 動物の行動

動物は何をしているのか。

歩いているのか、登っているのか、採食しているのか、休んでいるのか。

③ 選択肢

動物が、

「ここにいる」

「隠れる」

「別の場所へ移動する」

といった選択をできる構造になっているか。

④ 来園者との距離

人間から逃げられる場所があるのか。

それとも、常に観客の視線にさらされているのか。

⑤ 解説

その展示は「珍しい動物を見せる」だけなのか。

それとも、生息地や保全の問題まで伝えているのか。

1999年の本を、2026年に読む

『動物園にできること』が初めて刊行されてから、すでに27年が経ちました。

その間に、動物園をめぐる言葉も変わってきました。

日本でも「アニマルウェルフェア」「環境エンリッチメント」といった考え方が広まり、動物園自身も動物の状態をより細かく評価しようとしています。

実際、ウッドランドパーク動物園は2025~2030年の戦略の中で、動物のウェルビーイングを明確な目標として掲げています。

一方で、動物園の基本的な役割は大きくは変わっていません。

動物を飼育すること。

動物を見せること。

野生動物を守ること。

人間に自然について考えてもらうこと。

そして、動物園で暮らす一頭一頭の生活をより良いものにすること。

だからこそ、今回の旅行では「アメリカのすごい動物園」を見に行くのではなく、

「アメリカの動物園は、30年前からどう変わったのか?」

という目線で2つの動物園を訪れてみたいと思います。

シアトルのウッドランドパーク動物園。

ニューヨークのブロンクス動物園。

どちらも1899年にその歴史を始めた動物園です。そこにはアメリカの動物園が歩んできた長い歴史があります。

『動物園にできること』を鞄に入れて、実際の動物園を歩いてみます。

次回からは、まずシアトルへ。

2026年のウッドランドパーク動物園は、いったいどんな場所になっているのでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました