熱帯雨林は不変ではなかった
アフリカの熱帯雨林は、現在、地球上でも屈指の生物多様性を誇る地域です。しかし、その姿は決して「太古から不変」だったわけではありません。
過去数百万年にわたる地球規模の気候変動、とりわけ更新世に繰り返された寒冷化・乾燥化によって、アフリカの熱帯雨林は何度も縮小と拡大を経験してきました。森が後退した時代には、広大な連続林は失われ、森林は点在する「孤立した森」へと分断されたと考えられています。
そのなかで、乾燥期にも森林として生き残ったエリアが存在しました。これをレフュージアと呼びます。
レフュージアとは何か
そもそもレフュージアとは、氷期や乾燥化などの厳しい環境変動のなかでも、生物が生存し続けることのできた「最後の拠り所」を指す概念です。
植物学者のマレイ(Maley)やハミルトン(Hamilton)らの研究によれば、更新世の気候変動期、アフリカの熱帯雨林は大きく分断され、現在のような連続した森ではなく、「島状の森林」として各地に残存していたとされます。
これらのレフュージアは、大きく山地型と低地型に分けることができます。
アフリカ中央部を走る大地溝帯とその西側の高地では、湿った空気がせき止められ、比較的降水量の多い環境が維持されました。一方、大地溝帯の東側では乾燥化が進行し、サバンナが広範囲に拡大していったのです。
この地理的・気候的な非対称性こそが、後の動物進化に大きな影響を与えることになります。
森に残るか、サバンナに向かうか
霊長類の進化史において、この環境変化は決定的な意味を持ちました。
霊長類学者・山極寿一氏は、「森にとどまる選択」と「森の外へ出る選択」が、類人猿と人類の進化の道筋を分けたと指摘します。
森林環境への適応を維持した系統が、チンパンジーやゴリラです。彼らは木登り能力や果実食への適応を保ちつつ、複雑な社会関係を森の中で発展させたのです。
一方、森林の縮小とともに開けた環境へ進出した系統が、人類へとつながっていきます。二足歩行や道具使用といった人類の特徴は、「森の外」という新たな環境条件のもとで選択・強化されたのです。
人類だけではない――大型哺乳類に見る「森型」と「サバンナ型」
この進化的分岐は、霊長類に特有の現象ではありません。アフリカの大型哺乳類の多くにも、森林型とサバンナ型という二つの適応戦略が見てとれます。
ゾウやキリンはその代表例と言えるでしょう。
たとえば、マルミミゾウは、森林環境に適応した比較的小型のゾウです。一方、開けたサバンナに生息するアフリカゾウは大型化し、長距離移動に適した体格を獲得しました。
キリンもまた、サバンナという環境に適応し、高い木の葉を利用する戦略を選択した結果、極端に首の長い体形へと進化した動物です。逆に森林に残ったのは、オカピです。
レフュージア進化の象徴――ゴリラという存在
アフリカにおけるレフュージア進化を象徴する存在が、ゴリラです。
ゴリラは、分布域の分断によって西と東に分かれ、さらに
- ニシローランドゴリラ
- クロスリバーゴリラ
- ヒガシローランドゴリラ
- マウンテンゴリラ
という4つの系統へと分化しました。
これらの違いは外見だけではなく、食性、成長速度、群れ構成など、生活史全体に反映されている。
日本の動物園で主に飼育されているニシローランドゴリラは、低地の森林レフュージアに適応したタイプであり、その果実中心の食性には、森林環境での進化の痕跡が色濃く残されています。
まとめ
アフリカのレフュージアは、生き残りをかけた選択の積み重ねにより、生物多様性が生み出され、保たれてきた貴重な大自然です。
動物園でゴリラ、ゾウ、キリンを見るとき、その背景にある「森とサバンナの分岐」を思い浮かべてみてください。彼らの姿からは、アフリカの環境変動と動物たち進化の歴史を、見てとることができるからです。





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