2025年2月16日(日)、上野動物園からほど近い東京国立博物館にて、環境省、(公社)日本動物園水族館協会(以下、JAZA)、(公財)東京動物園協会の共催で、「保全シンポジウム 生物多様性保全の10年~動物園・水族館の挑戦と未来への展望~」が実施されました。
はじめに
2014年、JAZAと環境省は「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」を締結しました。この協定書の下で、各地の動物園や水族館が、国産の絶滅危惧種の保全活動に力を入れてきました。
今回のシンポジウムでは、それから10年が経った今年度、これまでの保全活動のあゆみを振り返りつつ、市民向けの講演やパネルトークが実施されました。
プログラム
シンポジウムは、大きく分けると、以下の3つのプログラムに分かれていました。
- 環境省による保全の取り組み
- 動物園・水族館による保全の取り組み
- パネルディスカッション
特に、2つ目の「動物園・水族館による保全の取り組み」は、以下の動物たちの保全活動について、これまでのストーリーと、今後にむけての課題を、各担当者が熱く語っていました。
- ツシマヤマネコ
- 二ホンライチョウ
- ハカタスジシマドジョウ
- アマミトゲネズミ
- ミヤコカナヘビ
- カタマイマイ(などの小笠原諸島の希少なカタツムリ)
また、パネルディスカッションでは、作家の川端裕人さんが登壇しています。川端さんは『動物園にできること』(文藝春秋、2006)や『動物園から未来を変える』(亜紀書房、2019)という2冊の名著を書かれています。2冊とも、動物園に興味がある人の必読書です。
「保全」とは?
ところで、そもそも保全とは何でしょうか?
このキーワードを考えると、それだけで1つの記事になるので、今回はその詳細を考えることはしません。
ただし、シンポジウムの中でくりかえし述べられていたのは、「生息域内保全」があってはじめて「生息域外保全」が成り立つということでした。
動物園が希少なツシマヤマネコやライチョウを飼育し、繁殖させることができたとしても、生息地が破壊され、なくなってしまえば、意味がない。だからこそ、その生息環境そのものを守り、生態系を維持することが、動物園での飼育や繁殖の大前提にあるのです。
強調された「教育普及」の重要性
シンポジウムのなかで頻繁に触れられていたのは、「保全活動を来園者に伝えることが大切なんだけれども、同時に難しい」ということでした。
たとえば、アマミトゲネズミの計画担当者である田中秀太さん(神戸どうぶつ王国)は、
「まずは知ってもらうことが、保全に向けては一番大切だと考えている。」
と述べていました。
ミヤコカナヘビの担当者である本田直也さん(円山動物園)も
「宮古諸島の島内での保全のために、生息地の方々との連携が重要だ」
としていました。
希少動物を繁殖させ、生息地の環境を守るだけではなく、来園者への教育普及活動はきわめて重要です。そして、普及活動をやって満足するのではなく、事後評価まで丁寧に行って(外部機関の方が望ましいかもしれません)、フィードバックを今後の保全活動に活用することが、今後のさらなる課題となっていくと考えられます。
以下は、講演の最後(パネルディスカッションの直前)に、東京動物園協会が示したこれからの4つの課題です。これは動物園の慢性的な問題ですから、難しいことですが、対策を考えなければなりません。
- マンパワーの不足
- 飼育スペースの不足
- 飼育員の経験不足
- 効果検証
パネルディスカッション
環境省の荒牧まりささん、JAZAの堀秀正さん、作家の川端裕人さんの3名によるパネルディスカッションが、シンポジウムの最後の企画でした。
環境省としても、JAZAとしても、色々な制約があるなかで、できるかぎりのことを頑張ってきたと述べていました。逆に言えば、
「ヒト、カネ、モノの制約が改善されなければ、これ以上は何もしようがないのではないか、という閉塞感がある」
というのが、JAZAの堀秀正さんの考えです。
それに対して、川端さんは、
- シンポジウムでの各動物の保全活動には「ストーリー」があった。来園者の共感を呼び込み、教育普及の効果を高めるには、「ストーリーづくり」が重要である
- 動物園の人たちが働きやすい環境を整えれば、かつてよりもはるかに保全へのやる気に溢れた人々が、思う存分、保全活動に取り組めるはずである
- 「終わらない努力」は虚しいけれども、人口減少の進む日本において、将来的に残されるはずの「緑」を守り、その将来に向けた環境と希少動物の保護を見据えるべきなのでは?
と励ましの言葉を贈っていました。
わたしたちにできること
結局のところ、
「お金さえあれば、もっと色々なことができるのに・・・・・・」
「どうしたら普及・啓発活動が効果的になるのだろうか・・・・・・」
というのが、動物園関係者の率直な悩みどころなのでしょう。
こうした悩みの解決の一助になるために、わたしたち来園者にできることは、実はいろいろあります。
身近な動物園のサポーターになる
上野動物園、王子動物園、とべ動物園、京都市動物園など、さまざまな動物園で「サポーター制度」が導入されています。
サポーター制度は、わたしたちが動物園に寄付をして、動物たちのエサ代や動物舎の整備などの運営費用に活用してもらおうという制度です。もちろん、動物園の側も、サポーターに対して、さまざまな特典を提供します。
できれば、寄付金がどのようなに使われているのかも、調べるとよいでしょう。
東京動物園協会野生生物保全基金
寄付する
この基金は、東京動物園協会が、野生生物の保全を実践、研究している個人や団体をサポートするために立ち上げた基金です。
わたしたちが寄付をすれば、直接活動に参加することができなくとも、野生生物の保全活動に間接き手に貢献することができるのです。
助成を受けて、保全活動を行う
多くの来園者にできることは、基金への寄付ですが、もし保全活動を実際に行いたいと思っているのであれば、この基金から助成を受けることもできます。
狭き門ではありますが、いくつかの区分が用意されているので、ご興味のある方は、公式サイトをチェックしてみてください!
ボランティアガイドになる
最近では、多くの動物園がボランティアのスポットガイドを募集しています。
ボランティアガイドとして、動物園の職員が忙しくて伝えきれない動物たちの魅力を、来園者に伝えてみませんか?
まとめ
今回の記事では、「保全シンポジウム 生物多様性保全の10年~動物園・水族館の挑戦と未来への展望~」の【独自レポート】をお届けしました。
今後も当ブログでは、日本の動物園や水族館に関係する注目すべきトピックを、『ピックアップ』として特集していきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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