「ナックルウォーク」って何?|類人猿の歩き方

どうぶつと人間

みなさんは「ナックルウォーク」という言葉を聞いたことがありますか?

ゴリラやチンパンジーが地面を歩くとき、握りこぶしを地面につけて四足歩行する、独特の歩行スタイルのことです。動物園やテレビで1度は目にしたことがあるのではないでしょうか?

かつては「ヒトの祖先も同じように歩いていた」と考えられていました。ところが近年の研究は、この“常識”を大きく揺るがしています。今回は類人猿の歩き方に注目してみましょう!

ナックルウォークとは?

ナックルウォーク(knuckle-walking)は、指の第1関節と第2関節の間の「手の甲」側を地面に着ける四足歩行の方法です。手のひら全体ではなく拳を支えにするため、体重がかかっても手の甲を守ることができます。

ナックルウォークをするのは、ゴリラ、チンパンジー、ボノボです。写真を載せようかと思いましたが、ぜひ動物園で実際にご覧いただければと思い、ここではあえて掲載しませんでした。

ヒトと類人猿の共通祖先は「ナックルウォーク」をしていた?

20世紀後半までは、「ヒトとチンパンジー・ゴリラの共通祖先もナックルウォークをしていた。そこから人間だけが二足歩行に進化した」という考えが広く受け入れられていました。

理由はシンプルで、現存するヒトの最も近い親戚=チンパンジーとゴリラが共にナックルウォークをするからです。「同じ特徴を持っているのだから、祖先もそうだっただろう」というわけです。

みなさんも下のような「進化」の図をどこかで見たことがあるのではないでしょうか。

ナックルウォークは、ゴリラとチンパンジーが“独自に”獲得した能力だった!?

ところが近年、解剖学や発生学の研究成果によって、このような従来の通説が変わろうとしています。

ゴリラとチンパンジーのナックルウォークは、それぞれが独自に発達させた可能性が高く、共通祖先は必ずしもナックルウォークをしておらず、むしろ樹上で直立的な姿勢をとることができる多様な運動スタイルを持っていたらしいという考え方が通説になりつつあるのです。

①化石からの示唆

約440万年前の化石人類アルディピテクス・ラミダス(通称:Ardi)の骨格解析によれば、Ardi は樹上でも地上でもこなす混合的な運動能力を持ち、手首や手の骨の形はチンパンジーのナックルウォークに典型的な形状とは異なると報告されました。

これにより「共通祖先=チンパンジーそっくり(=ナックルウォーク)」という仮説は揺らぎました。

② ナックルウォークは独自の進化?

また、手首・手根の形態解析によれば、チンパンジーとゴリラのナックルウォークは同じ起源からくるものではなく、それぞれの進化のプロセスの中で発達した可能性を示しています。

つまり、ナックルウォークは「共通祖先がやっていた」よりむしろ「各系統が独自に進化させた」可能性が高い、というわけです。

ただし、従来の通説が完全に否定されたわけではなく、今のところはどちらの可能性もあると考えられていると思ってください。

オランウータンはフィストウォークをする

ちなみに、大型類人猿の1種であるオランウータンは、ゴリラ・チンパンジーと異なる歩き方をします。

オランウータンはナックルウォークではなく、「フィストウォーク」という歩き方をします。こちらは握り拳の親指側を地面に当てて歩くスタイルです。

また、オランウータンは木の上でつかまり立ちをすることも多く、「二足歩行の起源は地上ではなく樹上にあったのではないか」という議論にもつながっています。

研究のこれから

  • 昔の通説:共通祖先=ナックルウォーク → ヒトだけ二足歩行へ
  • 通説のゆらぎ:ナックルウォークはゴリラとチンパンジーが独自に身につけた。共通祖先は多様な樹上運動ができたと考えられる。
  • 未解決の問い:ヒトの二足歩行は樹上起源か? 地上適応か? それとも両方の段階が関わったのか?

ナックルウォークの研究は、ヒトが「なぜ二足歩行をするのか」という大問題に直結しています。これからの化石発見や筋肉・発生学の研究が、この謎をさらに解き明かしてくれるでしょう。

まとめ

動物園でゴリラ、チンパンジー、オランウータンなどの類人猿を見る時は、この記事で読んだことをもとに、ぜひ歩き方に注目してください!

それだけで動物の見え方がちょっぴり変わってくるかもしれませんよ!

参考文献

京都大学. (2018年2月1日). ヒトの祖先はチンパンジーやゴリラには似ていない. 京都大学 研究ニュース. https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2018-02-01-1

Williams, S. A., Granatosky, M. C., Cooke, S. B., & Russo, G. A. (2010). Morphological integration and the evolution of knuckle-walking. Journal of Human Evolution, 58(2), 165–178.

Prang, T. C., Austin, M., & Nengo, I. (2021). Ardipithecus hand provides evidence that humans and chimpanzees evolved from an ancestor with suspensory adaptations. Science Advances, 7(1), eabd5564.

他にも参考すべき文献は山ほどあります!ぜひ英語で検索してみて下さい!

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