【読書案内】『動物園にできること』

読書案内
生きものの語り部が読んだ本を紹介する「読書案内」シリーズ。今回紹介するのは、2006年に文庫版が出版された、川端裕人さんの『動物園にできること:「種の箱舟」のゆくえ』(文藝春秋)です。

著者紹介

川端裕人さんは、1964年兵庫県明石市生まれの、千葉市育ち。東京大学教養学部で科学史・科学哲学を専攻後、日本テレビに記者として入社し、科学技術庁や気象庁を取材しました。

川端さんの強みは、長年の記者経験に裏打ちされた取材力と、動物への愛情と科学的な冷静さが同居する文体。現場でのフィールドワークとバランスの取れた視点は多くの読者から支持されています 。

現在は、小説とノンフィクションの両方で活躍している川端さんですが、動物園についても知見が広く、今回ご紹介する『動物園にできること』(1999年初版)は、アメリカ各地35か所の動物園を取材したルポルタージュ。動物園が「種の保存の場」「教育の場」「エンターテインメント施設」など、複数の役割・機能の間で葛藤しながら進化する姿を描き出しています。

どんな人におすすめ?ポイントは?

この本は、

  • 動物園のディープな世界について知りたい人
  • 動物園に抵抗感のある人

におすすめします。

1999年の初版をベースに新版が加筆されてきたという歴史があるため、アメリカでの取材の情報そのものは現在の実情と異なるものかもしれません。しかし、動物園が本質的に抱えている問題や、その問題に正面から向き合って動物園が変化しようとしている(あるいは社会から正負の評価を受けている)ことに、変わりはありません。

ここで、動物園が取り組んでいる「希少動物の種の保存」に関する本書の記述に注目してみます。

多産であることは、肉牛などにとっては大切なことだ。しかし、野生動物の種の保存のためには、簡単に繁殖してくれる多産系の個体よりも、繁殖力の弱い個体をいかに繁殖させるかに努力が払われる。

川端(2006)187頁。

この記述からもわかるように、動物園ならでのアプローチはイヌやネコなどのペット動物、ウシやブタなどの家畜動物とは異なるアプローチなのです。

このことを意識することは動物園について考える上では非常に重要な観点なのですが、一方で動物園動物を特別扱いしたり、ほかの動物とは切り離して考えることは別のやっかい事を引き起こす恐れがあります。それについては、成城大学の打越綾子先生の御著書が必読なので、いずれこのコーナーで扱うつもりです。

本書の記述のほとんどは、アメリカでの取り組みについてですが、最終盤に(当時の)日本の動物園の事情にも言及しています。

まずは本書を手に取り、日米の動物園での取り組みについて、学んでみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回の記事では、川端裕人さんの『動物園にできること:「種の箱舟」のゆくえ』の【読書案内】をお届けしました。

今後も当ブログでは、生きものの語り部が読み、本を紹介していきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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